面倒な女の詳細は意外と深かった マルセル・プレヴォーの「田舎」
パリで脚本家として成功しているピエエルの元に故郷イソダンから一通の手紙が届く。
差出人は初恋の女性マドレエヌ。
二人が出会った時ピエエルは十七歳の学生、マドレエヌは二十三歳の若き未亡人。淡い好意を寄せながらも姉弟のようなキスを交わすだけの仲だった。
手紙によれば、再婚した夫の浮気が発覚して憤慨している 自分の今後について是非あなたに相談したい とのこと。
ピエエルは美しかったマドレエヌが現在どうなっているかという興味と、もしかしたら夫への当てつけに自分と関係を持とうとしているのでは?と読んで、これは自分の作品のネタになるかも…と面会の約束に応じる。しかしピエエルはマドレエヌに約束をすっぽかされ、後日マドレエヌからは二通目の手紙が届く…
ここまで読んで、正直(マドレエヌってめんどくさい女だな)と思いましたね
自分から約束を取り付けておいて来ないって…しかも来なかったくせにまた手紙寄越すって…
でもこの短編小説のキモは、二通目の手紙にあるんです
なぜ会わなかったのか
実はマドレエヌは約束の場所に居たんです
そして直前まではピエエルに会うつもりだった
しかしこっそり覗いてピエエルの姿を見た瞬間会わないほうがいいと判断してその場を去った(ここまで聞いてもまだめんどくさい女だけどね)
その理由が二通目の手紙に書いてある
これがね、なかなか深いんですよ
ぜひ本編を読んでいただきたいんでネタバレはやめますが、訳が森鴎外で 文章がとても美しいんです
複雑な女心 なんてよく言いますけど
そういうのって女性自身も案外気付いてないんじゃないか
あるいは表現する言葉を持ち合わせていないとか
マドレエヌという女性は16年ぶりにピエエルの姿をみて気づいたんですね 自分の本心に
16年越しの想いと、自分の平凡な人生の中で唯一湧き起こった淡い衝動を、ピエエルだけは全て理解してくれるだろう、それで終わりにしよう と手紙をしたためた。
そのオンナ心をオッサンのプレヴォーと鴎外が切々と綴ってて、女の私が読んでもちょっと唸っちゃうくらい深い
もしかしたら男である彼らの中にある女性像の方が、現実の女性よりずっと濃縮され純化されたものなのかもしれませんね
“女の手紙は行間を読め”
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