書くべきものを持った人の圧倒的な筆致 久保俊治「羆撃ち」
知床の冬山に分け入り ヒグマを追う男と彼が育てた猟犬の話(ノンフィクション)
いや〜凄い
凄いの一言に尽きる
読んだ人の多くが同じ感想を持つと思うが
狩猟や野生動物に関する知識が全くない人が読んでも
まるで自分が著者の後ろにいて
全てをそこでみているような感覚におちいる
年月がたったことをこれだけの臨場感で書けるということは
おそらく狩猟日記のような形で記録はしていたと想像できる
それにしてもだ
一挙手一投足をやたら詳細に書いてるだけで
なーんも響かない文章
というのも世の中には数多く存在するが
「 羆(くま)撃ち」の著者 久保俊治(としはる)氏は
簡潔な表現で
美しさと厳しさを併せ持った北海道の自然
刻々と変わる気象状況
己と野生動物の駆け引きに横たわる緊張感
手塩にかけて育てたアイヌ犬フチとの絆
それらを余すところなく描ききっている
命懸けで野生と対峙することで
五感が常に研ぎ澄まされているのだろう
仕留めた獲物を解体する場面では 血の生温かさや匂いまで
切り分けた肉を背負って下山する場面では 深雪を漕ぐ身体の重さまで
リアルに伝わってくる
本業は肉牛の肥育農家で 本書が唯一の著書
本職の物書きが
その筆力に羨望するというのも頷ける
こちらは若き日の久保さんと家族の暮らしを追ったドキュメンタリー
(三十年以上前のテレビ番組をDVD化)
こちらも「羆撃ち」とは違った意味で度肝を抜かれます