「すべての見えない光」アンソニー・ドーア

 遠く離れた誰かと
  話ができるなんて
  奇跡だということを、
  僕らはすっかり
  忘れてしまっている
アンソニー・ドーア

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お正月休みに読むぞ〜と張り切っていた長編小説です。予想外に手こずりました。なぜかと言うとストーリーの時代背景をちゃんと把握しないまま読み始めたから、日時が行き来することについていけなかったからです。途中から、頭だけで理解しようとするのをやめ、とりあえず最後まで読むんだと腹を括ると、いっきに読むことができました。

 

(作家池澤夏樹さんのレビュー  本書カバーより)

人生には自分で選べないものがたくさんある。たとえば、この小説の主人公であるマリー=ロールというフランスの少女は目が見えない。ヴェルナーというドイツの少年は大戦に巻き込まれる。悲惨とぎりぎりの彼らの運命をその時々に救うのは、貝殻や桃の缶詰、無線で行き交う声と音、いわばモノだ。それに少数の善意の人たち。遠く離れた少年と少女は少しずつ近づき、一瞬の邂逅の後、また別れる。波欄と詩情を二つながら兼ねそなえた名作だとぼくは思う。

 

この「一瞬の邂逅」に向かってストーリーは進んでいくのですが、途中からそれが「どこ」なのかというのが大体わかってきます。

もどかしいような気がしましたが、マリー・ロールとヴェルナーそれぞれの、一見静かにみえて徐々に時代に翻弄されていく日常に心を痛めたり、誰かが差し伸べてくれる善意の手にホッとしたり…

小さなエピソードがまるでミルフィーユのようにいくつも折り重なり、ストーリーに深みを持たせています。

そして予想していたところで「一瞬の邂逅」は訪れるのですが、それは想像以上に豊潤な空間で、読んでいて胸がいっぱいになりました。二人が離れ離れになった後のヴェルナーの顛末も鮮烈でまるで映画のシーンのように心に残っています。

全部読み終えてからすぐもう一度読み始めましたが、今度は戦況も時系列もスーッと入ってきます。そしてやっぱり同じところで胸がいっぱいになりました。自分の乏しい語彙で言い尽くせないのが惜しいです。現代の小説では稀有な「美しくてかなしい」物語だと思いました。

冒頭の新潮社のサイトでは著者のインタビュー記事を読むことができます。

 

 

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