降って、解ける

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先週末は吹雪で、一週間雪が降ったりやんだりでした。寒い一週間でした。

三月ももう直ぐ終わりますね。もう、降っても除雪車は来ないので、路面状態がとても良くないです、特に朝。この時期、意外と交通事故が多いので、わたしも気をつけて運転します。滑ったり轍にハンドルとられたりしないように。慎重に。

雪が降って、解けて、降って解けてを繰り返し、だんだん春になる。もうすこし。

藍色の蟇

藍色の蟇

 

法性のみち

 

わたしはきものをぬぎ、

じゆばんをぬいで、

りんごの実のやうなはだかになつて、

ひたすらに法性のみちをもとめる。

わたしをわらふあざけりのこゑ、

わたしをわらふそしりのこゑ、

それはみなてる日にむされたうじむしのこゑである。

わたしのからだはほがらかにあけぼのへはしる。

わたしのあるいてゆく路のくさは

ひとつひとつ をとめとなり、

手をのべてはわたしの足をだき、

唇をだしてはわたしの膝をなめる。

すずしくさびしい野辺のくさは、

うつくしいをとめとなつて豊麗なからだをわたしのまへにさしのべる。

わたしの青春はけものとなつてもえる。

 

えーっと…なんですかねこれは…。

法性(ほうしょう)のみちっていうのは創作活動のことかな?誰に何を言われようと構わない、私は私の道を行くのだ、心細いけど、行こうとする道は私を祝福してくれているではないか、さあ、行くぞ!と自分の気持ちを奮い立たせてみたよ(←私の解釈。果てしなく、誤解してるかもです) 詩の後半は、ヴィジュアル的になかなか強烈ですね〜。ちょっと、少年マンガの妄想シーンみたいです。いやいや、ばかにしてるんじゃないですよ。この人は、ちゃんとした会社で(ライオン歯磨本舗)きちんとお勤めしながら、せっせと雑誌に詩を投稿していたのだそうです。極端にシャイな性格だったらしいけど(いわゆるふつうの)会社員の生活を送る一方で、詩作においては、心の宇宙にイマジネーションの嵐を吹かせ続けた 。生涯、それをやめなかった。日雇い労働をしながら思索を続けた有名な哲学者が「魂は同時に二方向へ引っ張られることによってもっとも力を発揮する」と言っていたけど、この人も(望んだやり方だったかどうかは別として)そーゆータイプの人なんだと思いました。

みどりの狂人

 

そらを おしながせ、

みどりの狂人よ。

とどろきわたる媢嫉のいけすのなかに羽のある魚は、

さかさまにつつたちあがつて、

歯をむきだしていがむ。

いけすはばさばさとゆれる、

魚は眼をたたいてとびださうとする。

風と雨との自由をもつ、ながいからだのみどりの狂人よ、

おまへのからだが、むやみとほそながくのびるのは、どうしたせゐなのだ。

いや……魚がはねるのがきこえる。

おまへは、ありたけの力をだして空をおしながしてしまへ。

 

 生きている間、一冊の詩集も出せなかった詩人。しかし、口語自由詩の代表詩人萩原朔太郎にも影響をあたえた詩人。さっきと同じ哲学者の言葉で「名もない先例がどれだけ創造的爆発の引き金となってきたか、活動、思考、創造の領域においてどれほど新しい様式の種子となってきたかはとても語りつくせない」っていうのがあるんですが、この人の詩も〝名もない先例〟に近いものかもしれません。時代の評価というのは、ほんとうに曖昧なものなのだなと思います。

わたしの耳はあなたのこゑのうらもおもてもしつている。

みづ苔のうへをすべる朝のそよかぜのやうなあなたのこゑも、

グロキシニヤのうぶげのなかにからまる夢のやうなあなたのこゑも、

つめたい真珠のたまをふれあはせて靄のなかにきくやうなあなたのこゑも

銀と黄金の太刀をひらひらとひらめかす幻想の太陽のやうなあなたのこゑも、

(中略)

わたしはよつく知つている。

とほくのはうからにほうやうにながれてくるあなたのこゑのうつりかを、

わたしは夜のさびしさに、さびしさに、

いま、あなたのこゑをいくつもいくつもおもひだしてゐる。

  (あなたのこゑ  より)

これは……どうみても、ラブレターですね(笑)

ただ〝あなた〟という存在は、詩人の人たちがよく言う、ほんとうのこと、とか、うつくしいもの、のようにも受け取れますね。

その〝こゑ〟を知っているのに、思い出せるのに、辿り着けない、夜の孤独。

大手拓次詩集 (岩波文庫)

大手拓次詩集 (岩波文庫)

 

 

最後に「藍色の蟇」の 薔薇の散策という詩から。

これ、いいなあ。こういう人、たまにいるよね。

刺(とげ)をかさね、刺をかさね、いよいよに にほいをそだてる薔薇の花

  (薔薇の散策  より)