無限の前に腕を振る
一週間ほど前から夕方になると山鳩の鳴き声がきこえるようになった。
でーでー、ぽっぽう。
北海道では太平洋側の一部でしか越冬しないそうで、山間部のここで鳴く山鳩は、暖かい所から戻ってきたんだなと思う。季節は巡る。
鳥や動物、昆虫の世界にも疫病はある。彼らに病に対する認識があるのかどうか知らないけれど、、多分ないんじゃないか、、動ける限り、生きることを持続しようとするだけだ。
やんごとなきご身分の方にも、ホームレスにも
エンターテイナーにも、女子高生にも
等しく降りかかることなんだなあ、と
なんだか「あれ」が、とても厳かなもののように、錯覚してしまう。
天災というものは人間の尺度とは一致しない。
風が立ち、波が騒ぎ、
無限の前に腕を振る。
(中原中也詩集「山羊の歌」盲目の秋 より)
何が、誰が正しいのかわからない。テストの答えのような明解なものがない。だけどとにかく腕を振る‥人それぞれ、みんな必死なんだろう。誰も間違ってはいないんだろう。
時間はかかるかもしれないが、いつかは終息すると思う。何を失い何を得るのかと考えてみる。
アルジェリアのオラン市である朝、医師のリウーは鼠の死体をいくつか発見する。ついで原因不明の熱病者が続出、ペストの発生である。外部と遮断された孤立状態のなかで、必死に「悪」と闘う市民達の姿を年代記風に淡々と描くことで、人間性を蝕む「不条理」と直面した時に示される人間の諸相や、過ぎ去ったばかりの対ナチス闘争での体験を寓話的に描きこみ圧倒的共感を呼んだ長編。1947年発表。