押してもだめ
えーと、
これは…
筆ペンで書いたのですね。
押しても、の「し」に年輪を感じますね。
……そこじゃなくて?
「押してもだめ」
うーんとね、まずね、ここは雑居ビルの多目的トイレです。最近はユニバーサルトイレとか言うんだっけ?
入ると、写真には写ってないけど入り口の真正面の奥に手洗い用の洗面台があって、左奥に便器があります。
男性も女性も使えるトイレです。男性は時によって立ったり座ったりしますが、女性は100パー座ります。私、女。オバハンだけど、いちおう、女。座ります。
でね、
座ったとたん
「押してもだめ」に目が釘付けになります。そりゃそうですよ。こんな貼り紙初めて見るもの。
いきなり、
「押してもだめ」ですから。
こっちはただ座っただけなのにさ。
そう言われましてもね…
流せません、の意味だろうか。敢えて、押してもだめ、というのはなぜなんだろう。
まあいいや
仮に、流せませんの意味だとして
で?
どうしろと?
何も書いてない…
床に丸い突起があって足で踏んで流す方式をどこかで見たことがあるけど、それらしきものは見当たりません。
押してもだめなら…
ひいてみな?
いやいやいや
上に跳ね上げるんだろうか?上げれば水が流れるんだろうか?でも、だったらそう書くよね?
あ、故障中?故障中だから〝押してもだめ〟なのか。でも、だったらそう書くよね
なんだべ?訛ってみてもわからない。
※あとで調べたのですがやっぱりこれは、押して流す洗浄レバーですね。ですよね、普通そうですよね (フラッシュバルブの靴べら式レバー)
だけどこのトイレでは、〝押してもだめ〟なんだよね?
やはり故障中ということかしら。
健常者用の洗浄レバーは、便器の真後ろの壁にあります(二枚目の写真)入り口側からは全く見えないのだけどレバーの右の陰に、ここを押せという貼り紙がある。その貼り紙もそこじゃ全然意味がないように思うけど。
男性が小の方で使用する場合は、便器の正面に立つので、目線の位置に洗浄レバーがあるから、迷うことはないでしょう。
女性の場合は背を向けて座る。座っている間には後ろの高いところにあるレバーには気づいてない人が結構いると思うんです。でもまあ、その時はわからなくても最後に立ちあがって振り向けば大概の人は気がつくでしょう。ただ、腰の曲がったお年寄りや子供には分かりにくいだろうな、と思います。後ろを振り向くきっかけがなければ、座ったまま、つい横の靴べら式レバーを押したくなる気持ちはわかります。
車椅子の人はどうすればいいのかな。後ろのレバーに気がついても手が届かないのに。
〝押してもだめ〟って書いたのは、ビルの施設管理の人?字面からして、おじいちゃんかな。シルバー人材センターあたりから派遣されてきた。違うかな。
メッセージの切り口がちょっとおかしいんですよね。
「押さないでください」でも「故障中」でもなく「押してもだめ」。しかもご丁寧に、筆ペンで。
そのしっとりとした字面と裏腹に、おそらく同じようなクレームが続いた挙句の「だーかーらー。押してもだめなんだって、、」という、怒りとやるせなさだけが、ジワーっと伝わってくるというね。短い言葉なのにね、無駄に感情が篭ってる。一言のインパクト。
〝押してもダメ〟じゃなくて、例えば「故障中につき後ろのレバーをご利用ください」とか書けばまだわかりやすいのにな。なんでそうしないんだろう。もしかして故障じゃない他の理由があるのかな。
(故障ならば早く修理してねー)
世の中には、購入方法がわかりにくくて行列ができてしまう自動券売機や、ついつい書き間違えてしまう書類、歯を磨こうとしているのに服を着たままシャワーを浴びてしまう切り替えハンドルや、何を入力したら良いのかわからず途方にくれてしまうウェブサービスなど、間違ってしまう、操作に悩んでしまうBADUI(バッドユーアイ)が溢れています。こうしたBADUIはデザイナが作ることもありますが、それ以外の人によって作られていることも多いものであり、誰もがBADUIの作り手となっています。
本書は、200を超えるBADUIについて写真と状況説明、そしてユーザの失敗理由とともに紹介しています。こういう状況なら自分ならどうするかと予想し、「使いにくいことの原因は何なのか」「どうしたら使いやすくなるのか」を考えることで、ユーザインタフェースに対する知識を得ていただければと思っています。
具体例の写真がいっぱい。 クイズみたいで、読んでいて楽しくなる本でした。
今日聴いた曲
パティ・グリフィン
女性シンガーによるトムウェイツ カバー集より。
このジャケット、どこか見覚えがあるような気がしたんだけど、Rose in Tidelandに出てくる風景に似てるんだ。